2011年10月21日金曜日

失言よりも罪深い発言

昨日の「天使人語」は井上靖『氷壁』から 山で落命した主人公に目をかけていた上司が悼辞で「ばかめが!」と締めくくるくだりを引用しました。
言うまでもなく平野達男復興大臣の「失言」について「言葉をめぐる空気がどうも息苦しい」という感想を述べたものです。私も同感です。
一方 本日の閣議後の記者会見で小宮山洋子厚生労働大臣は 民主党の介護労働者の賃金を月額4万円引き上げる方針について「現在も堅持されており 目標として否定されたものではない」との認識を示したそうです。
また「介護職員処遇改善交付金の形で続けるのか 介護報酬の中に組み込むのかどちらにするかは決めていない」と述べたとも伝えられています。
13日の介護保険部会・17日の給付費分科会を見る限り とてもそのような雰囲気ではありません。
もしこの発言を額面通り受け取れば 民主党は「普天間問題」と同じ未熟さをいまだに抱えていると思わざるを得ません。
「政治主導」に期待するのは八方美人ではありません。
どんなに厳しい判断でも 合理的で透明なプロセスを経ていれば 従うのが民主主義です。
こんな当たり前なことを疑うのであれば 事業者ばかりか何より国民を愚弄しているとしか言いようがありません。

2011年9月22日木曜日

複合型サービス創設の目的は訪看STの規模拡大!?

本日 第80回社会保障審議会介護給付費分科会が開催されました。
議題は 注目の「定期巡回・随時対応サービス」と「複合型サービス」の基準・報酬です。
たたき台(論点)を示してのフリーディスカッションですから 報酬に踏み込む前の人員基準が中心でした。
「定期巡回・随時対応サービス」については 現行の夜間対応型訪問介護を踏襲する案が示されました。介護職員が24時間1以上の配置ということであれば4.2人が最低基準ということになります。
看護職員については「サービス提供に必要な以上」というのが事務局案です。当然のように訪問看護協会からは 医療保険に対応するためにも2.5人以上という意見が述べられました。
「複合型サービス」については 看護師は2.5人以上で「利用対象者は小規模多機能型居宅介護の登録者に限る」ということがはじめて示されました。
これには釈然としない委員も多く「これほど手厚い体制にする意味があるのか」という声も上がりました。
この通り推移すれば あらたに看護職員を雇用数する形ではなく 訪問看護事業所と併設型の小規模多機能型居宅介護でなければ利用者・事業者ともメリットが感じられません。
期待される効果は「訪問看護ステーションの規模拡大および経営の安定」しか考えられません。

2011年9月16日金曜日

医療介護・保育は「町内会の屋台」?

昨日 日本総研と一橋大学が共催した「税・社会保障シンポジウム」に参加しました。
今般の改革について 多彩な講師から有益なレクチャーを受けました。
評価については 現在の政治状況では一定の成果を認めるというものから やらないよりはましな程度まで幅があります。
しかし この改革で今後の社会保障が安泰となるわけではないという認識は深くなりました。
多くのサゼッションの中で興味深かったもののひとつに 鈴木亘学習院大学教授の「社会保険は『町内会の夏祭りの屋台』状態。目に見える価格は安いがその裏には多額の公費負担が存在している。そのため超過需要が生じ 高コスト体質・サービスの質の低下を生む」という意見がありました。
そのため社会保険への消費税投入は避けるべきで 保険料や自己負担のアップで賄うべきだというものでした。
特に競争原理の全く働かない保育分野では 氏の懸念が現実のものとなっているといわれても反論できないのが現状でしょう。
とはいえ専門家の見解がこれほど分かれている状況で 国民=生活者が完全に合理的な行動・選択をすることは困難です。
そこに必要なのは 専門家の知見のうえに国のあり方をビジョンとして示すことでしょう。
分析だけでなく そこから「意思」を導き出すことができなければ政治の意味はありません。

2011年8月29日月曜日

研修・セミナーに参加して何が得られるのか

27・28日と長野県小諸市・佐久市で開催された地域ケア研修会に講師として参加しました。
高峰高原の清澄な空気のなか これからの地域包括ケアや住まい・お泊りデイのありかたについて 多くの示唆が得られた貴重な2日間でした。
今回に限らずシンポジウムや討論の場で感じるのは せっかく素晴らしい論点が示されたにもかかわらず なかなか議論が深まらないもどかしさです。
日本人は欧米人のようにディベート教育を受ける機会がなく議論下手で 反論や疑義の提示にためらいを感じがちになるというのもその理由のひとつですが それだけではないでしょう。
テーマが明確な議論においてシンポジストが示すべきもの 参加者がそこから受け取るべきものは「結論」ではないはずです。
「なにを」根拠に(めざして)そう考えるのか
「なぜ」他と異なった意見を持っているのか
を明確にすることが大切なのです。
私たちが事業経営の中で求めなくてはならないのは インフォメーション(information)ではなくインテリジェンス(intelligence)です。
日本語では両方とも「情報」という訳語となってしまいますが 後者は前者を価値判断(何をめざしているのか)に基づいて処理し使用するものです。
安直に「How to」を求めてセミナーや研修会に参加しても得られるものはごくわずかです。経営者や専門家には「What to」と「WHY」を常に問いかけていく姿勢が欠かせません。

2011年7月12日火曜日

被災者支援のため無理解を正す声を

4月13日のブログに書いたように 第72回社会保障審議会介護給付費分科会において「被災地における訪問看護ステーションの看護師の一人開業を基準該当居宅サービスとして認める特例措置」が認められ22日には「東日本大震災に対処するための基準該当訪問看護の事業の人員、設備及び運営に関する基準」が施行されました。
①被災地(特定被災区域)において
②「基準該当訪問看護」(市町村の裁量)で
③「期間限定」(平成24年2月29日までの間)
という特例措置としてではありますが 被災地支援と在宅支援の両面から エポックメーキングな出来事でした。
「特例の一人開業ゼロ『推奨の意味ない』」(7月5日付「キャリアブレイン」)
の報道のように なかなか申請がなされないことに対する疑問の声も挙がっていました。
これに抗うかのように 昨日(7/11)特定被災区域である青森県八戸市において 看護師の中里藤枝さんが 本特例措置での第1号の申請を行いました。
今後も 石巻市や気仙沼市・仙台市等で 開業希望看護師が立ち上がっていく予定のようです。
日々 被災者や利用者と向き合い格闘している看護師たちにとって 何の支援のない中で申請という行為を行っていくのは至難の業です。
また申請先の八戸市の反応も
「自分の生活もまだ見通しがつかない看護師達がそんなに順調に準備ができるわけがない」
「比較的被害が少なく準備ができた八戸は 今度は必要性がない」
「受理という形ではなくあくまで預かり検討で 給付は許可しないこともありうる」
という なんとも理解しがたいものだったそうです。
「がんばろう!!日本」や「被災者のための」というスローガンを掲げるだけでは 何も解決しません。
ぜひ専門家のみなさんが 下記のホームページなども活用して 被災地や行政に声を届けてください。
内閣府行政刷新会議事務局「国民の声担当室」
首相官邸「ご意見募集
厚生労働省「国民の皆様の声」募集
衆議院「行政に関する苦情受付窓口」
参議院「ご意見募集」
日本看護協会「パブリックコメント」
民主党本部「国民の声」

2011年6月28日火曜日

法令に書いてあれば必然的に行われます

昨日 衆議院第二会館内に厚生労働省老健局介護保険課課長補佐を招いて 改正介護保険法の概要についてレクチャーを受けました。
説明終了後 改正法の第70条の第7項および第8項に追加された以下の条文の真意について質問しました。
「7 市町村長は、…定期巡回・随時対応型訪問介護看護等の事業を行う者…が当該市町村の区域にある場合…、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、都道府県知事に対し訪問介護、通所介護その他の…居宅サービス…に係る…指定について、…当該市町村が定める市町村介護保険事業計画…において定める当該市町村又は当該定期巡回・随時対応型訪問介護看護等事業所の所在地を含む区域(筆者注:日常生活圏域)における定期巡回・随時対応型訪問介護看護等の見込量を確保するため必要な協議を求めることができる。この場合において、当該都道府県知事は、その求めに応じなければならない。
 一 当該市町村又は当該日常生活圏域における居宅サービス…の種類ごとの量が、当該市町村が定める市町村介護保険事業計画において定める当該市町村又は当該日常生活圏域における当該居宅サービスの種類ごとの見込量に既に達しているか、又は第一項の申請に係る事業者の指定によってこれを超えることになるとき
 二 その他当該市町村介護保険事業計画の達成に支障を生ずるおそれがあるとき
8 都道府県知事は、前項の規定による協議の結果に基づき、当該協議を求めた市町村長の管轄する区域に所在する事業所が行う居宅サービスにつき第一項の申請があった場合において、…指定をしないこととし、又は…指定を行うに当たって、定期巡回・随時対応型訪問介護看護等の事業の適正な運営を確保するために必要と認める条件を付することができる。」
つまり 定期巡回・随時対応型訪問介護看護などの地域密着サービスが増えることによって介護保険事業計画の見込み量を超えるなどするときは 市町村は居宅サービスの指定を拒否するよう都道府県に求めることができるというものです。
これは「『事業者の参入の自由』と『利用者の選択の自由』という介護保険法の根本理念を大転換する改正ではないか」と聞いてみたのです。
回答は「新サービス(定期巡回・随時対応型訪問介護看護)の促進・拡充策で『居宅サービスの総量規制』を意図したものではない」というものでした。
しかし 法令というものは その起案者の意図にかかわず「書いてないこと(を行うこと)は認められるが(「…してはならないない」など)書いてあること(禁止や規制されていること)は行えない」のが大原則。
ましてや「…できる」とあれば 当然行われるものです。
であれば「法令に従って」居宅サービスの総量規制は行われるのが必然です。

2011年6月24日金曜日

企業・組織は志を遂げる手段

6月23日付けの日本経済新聞(集中講義「企業を考える」)で 三品和広神戸大学教授が「生え抜き経営者(最初から企業に所属して役員になった経営者)と創業期の企業家とは決定的に特性が異なっている」と述べています。
「創業期の企業家たちは 事業を推進するための手段として企業を位置付ける。それに対して 生え抜きの経営者たちは 企業を維持するための手段として事業を位置付ける。この主従逆転に伴って 経営戦略論が勃興することになったのである」と 経営管理論に代わって経営戦略論が隆盛を極めた理由を挙げています。
この主従逆転=目的の手段化は 経営者にとって厳に戒めなければならない落とし穴です。
創業経営者であっても 立ち上げの「志」(理念やミッション)を見失うと 同じ陥穽に陥ります。
氏は「企業が経営戦略の必要性を感じること自体 苦悩の表れに他ならない。往々にしてエンタープライズ(大企業)がゆっくり衰退の道を歩むのも 必然の結末と受けとめるべきなのであろう。これも規模の不経済の一つである」と続けています。
目的を忘れ事業規模拡大に走ったり 見せかけの経営論で社内外 果ては自らまでをごまかそうとするときに 崩壊がはじまるのです。