2012年11月20日火曜日

多職種に共通するプロトコルを

17日土曜日に「医療介護福祉政策研究フォーラム」(虎ノ門フォーラム)の第1回シンポジウム「医療・介護の『2025年問題』を乗り切るために」に行ってきました。
代表理事は中村秀一内閣官房社会保障改革担当室長。厚生労働省老健局長や社会・援護局長を歴任し『2015年の高齢者介護』をまとめたことで名を残しました。
退官した後いったんは社会保険診療報酬支払基金の理事長に就任しましたが 再び最前線に返り咲いた敏腕行政マン(それだけに敵も少なくないでしょう)です。
入省当時の想いを初志貫徹している「公僕」の一人であることは 誰しも認めるところではないでしょうか。
わが国の医療・介護政策についてシンポジストの島崎謙治政策研究大学院大学教授は「"quality"(質の向上)・"access"(アクセスの確保)・"cost"(できるだけ低廉なコスト)という3つの目標(評価基準)を同時に達成することは至難。どれかひとつを犠牲にすることを選択せざるを得ない」と日本の医療の特長である「フリーアクセス」の見直しを示唆しました。
また地域包括ケアの鍵となる「医療と介護を横断したシームレスな連携」が進まない理由のひとつに「『インターフェース・ロス』の発生による情報やサービスの脱漏がある」と述べました。
もともと「インターフェス・ロス」とは 機種等が異なるために情報がうまく伝わらないことを意味する情報技術用語ですが 医療・介護の分野でも異なる組織・職種間で情報伝達が行われる場合には同様な現象が起きます。
医療職と介護職の間だけではなく 医師・看護師・保健師・ケアマネジャー・介護福祉士・ケースワーカーなどなど おのおのの職種間には職能・教育・思考方法に違いがあるためです。 
このギャップを埋めるのは簡単なことではありません。異なる職種同士の理解には 共通のプロトコル(相互に決められた約束事)や言語が必要です。
ICF(国際生活機能分類)などもそのひとつといえますが その普及には教育システムの整備が欠かせません。
『介護経営白書2012年度版"介護維新"現場からの介護人材教育改革』「特別座談会」堀田聰子独立行政法人労働政策研究・研修機構研究員が述べているように「職業プロファイルの見直しと資格プロファイルの整理による横断的な教育体系の再編」がなにより必要だと改めて感じました。

2012年11月19日月曜日

アーティストの技と魅力

週末荻窪音楽祭に出かけました。
今回で25回を数える市民が「住みやすい街」づくりをめざし生み出した素敵なイベントです。
街のそこかしこで手作り感にあふれた50弱のコンサートが4日間にわたり開催されました。
「(バリアフリーで)若者や高齢者も快適に過ごせ 子供達が明るく元気に育っていける街づくり」というコンセプトはまさに「地域づくり」の基本といえます。
とりわけ興味深かったのが「シャコンヌを聴け!!」です。
4人のアーティストがヴァイオリン・ピアノ・ギターでバッハの「シャコンヌ」(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番)を弾き比べるというユニークな企画でした。
バッハの原曲がブラ―ムスやブゾーニの手にかかると 左手一本の簡素なもの・超絶技巧の華やかなピアノ曲に生まれ変わります(写真はピアニストのお二人)。
同じ曲を1回のコンサートで4回聴くというのは生まれて初めてですが 飽きるどころか音楽の奥深さに引き込まれたようになりました。
同じメニューでもアーティストのコンセプトや感性・技術によって 人に与える感動は千差万別です。
介護事業にも同じことがいえますね。
ケア・在宅・自立・地域…をどうとらえるか どう創造したいかによって できあがるサービスはまったく異なったものになるのでしょう。

2012年11月14日水曜日

プロフェッションでなければリスクは取れない!

先週末「在宅事業者が取り組む『住まい』サービス-地域包括ケアが求める介護事業者の使命」フォーラムを開きました。
10月31日のブログ「賃貸住宅事業は介護保険事業!?」にも書いたように「『餅は餅屋』という理にかなった事業行動をとっていくことを忘れないでほしい」というのがひとつの目的でした。
「介護事業者が『サ高住』をオーナーに立ててもらう場合 35年間一括借上げを保証するため経営者個人が連帯保証人として多額の債務保証をするケースもある。建設費(60室)4億円を25年借りると 銀行には月額200万円超の返済が必要。オーナー利回り7%保証という条件で介護事業者が35年間一括借上すれば月額230万円。それが35年では9億8千万円もの債務となる。1部屋の家賃を6万円と仮定すれば 80%の入居率でようやく黒字(290万円弱)になる」と株式会社やさしい手の香取幹社長はそのリスクの大きさを語ってくれました。
右の図の①~⑤のどこから収益を得るのかによって ビジネスそのものが変わってきます。
土地の所有者・建設者・住宅運営者・サービス提供者のそれぞれが専門性に基づいて 責任と成果を分担するスキームの構築が不可欠なのです。

2012年11月8日木曜日

一人で歩けば徘徊 みんなで歩けば地域防犯隊

私がかかわってきた「幼老共生型」の事業所がいよいよ竣工間近になりました。
東京都文京区駒込(4丁目35-15)にオープンする医療法人創健会(多湖光宗理事長)が運営する「文京ひかりの里」(認知症高齢者グループホーム3ユニット・事業所内保育所)です。
運営方針は「お年寄りの底力を生かそう」「子育てと仕事の両立支援」
2004年国際アルツハイマー病協会国際会議で奨励賞を受賞した多湖光宗院長は「病(気)」ではなく「人(間・生)」を看る特筆できる在宅医です。
これまでも三重県桑名市で 世代間交流を手法として高齢者ケアと次世代育成を融合・連携させることで「対費用効果」「ケアの質の向上」「高齢者の生きがいづくり」「教育的効果」など一石4鳥を狙う「幼老統合ケア」「能力活用セラピー」を実践してきました。
「一人で歩けば徘徊 みんなで歩けば地域防犯隊」というキャッチフレーズもその中から生まれたものです。
みなさんも ぜひ認知症ケアの最前線を実感してみてください。

2012年10月31日水曜日

賃貸住宅事業は介護保険事業!?

本日付の日本経済新聞(朝刊・東京・首都圏経済面)に「東建コーポ 在宅介護大手と提携 賃貸入居者向けに事業」という見出しを見つけました。
東建コーポレーションがジャパンケアサービスグループと提携し「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)の入居者を対象にサービスを始めるというものです。
「11月1日に高齢者向け住宅開設/高松の社福法人」10/31四国新聞
「東京建物 サービス付き高齢者住宅第2弾 埼玉で86戸」10/17朝日新聞
「株式会社スミカ『高齢者住宅運営事業』をあらたにスタート」10/15産経新聞
「シルバーウッド、高齢者住宅に本格参入 サービス付きで」10/15 日本経済新聞
などなど同様の記事が目白押しです。
「サ高住」は 昨年の10月登録開始から 総登録件数2,422・総登録戸77,470(本日現在)と「今後10年間で60万戸」の計画達成は間違いないといわれるほど 急速に整備が進んでいます。
「在宅限界を高める」という地域包括ケアの理念に基づいて「施設」から「住まい」へという流れは当然ですが 施策の乗っかれば成功するという事業ではありません。
高齢者住宅の賃貸は「準市場の介護保険事業でなく自由市場の事業」だということを忘れてはなりません。
そのツケが顧客(利用者)に回って「施設より劣悪な『名ばかり住宅』に泣く泣く住まわされる」という事態が生じないことを願います。
そのためには事業者が「餅は餅屋」という自明の理を前提とした事業展開を行っていくことです。
そこで弊社では 11月10日(土)に「在宅事業者が取り組む『住まい』サービス-地域包括ケアが求める介護事業者の使命」と題したフォーラムを開催いたします。
在宅介護・医療に強い介護事業者・医療機関のみなさまの参加をお待ちしています。

2012年10月25日木曜日

急成長するリーダーがいない組織

4月に「日本でも在宅ケアのルネッサンスを」というブログを書きましたが 昨日・一昨日と オランダの"Buurtzorg"という在宅ケア組織についての講演とQ&Aセッションに参加しました。
今回来日したのは 代表で看護師のJos de Blokに加え ヘルスケアとICTの専門家Ard Leferink・家庭医のPatrick Rijkers・職業教育機関と連携した教育等の企画を担当する看護師Jennie Mastの4人(写真右から)です。
前回より深く"Buurtzorg"について学ぶことができた たいへん貴重な2日間でした。
さまざまな観点から注目すべき点は多々ありますが 組織論からいえば「組織全体が階層構造を採っていないフラットなセルフマネジメントチームであること」さらには「各チームにもリーダーはおらず 全看護師がリーダーシップを発揮することが期待されている」という点です。
堀田聰子さん(労働政策研究・研修機構 人材育成部門研究員)も 最初は理解が困難だったようです。
Josに「『中間管理職』大国の日本ではにわかには信じがたい」と質問したところ「マネジメント自体が日々進化している。メンバーを信じて任せることが大切だ」と答えてくれました。
スペシャリストとしての高度な専門性と意欲を基盤にした「新しいリーダシップ論」が生まれるかもしれないと感じたと同時に ぜひオランダへ行って現場をこの目で見てみたいという気持ちが強くなりました。

2012年10月9日火曜日

高齢者は「地方」で暮らせ!?

昨日(10/8)の日本経済新聞に「高齢者の地方移住促進 送り出す自治体が費用負担 厚労省検討」というタイトルの記事が掲載されました。
施設が足りない大都市のため 高齢者の地方移住を促す総合対策をつくり 地方には都市部の自治体が医療や生活保護の費用を負担したり 施設の整備費を出すなど財政支援の枠組みを整える。また大都市の医療インフラを地方で使えるようにする。
という内容です。
この施策に違和感を覚えるのは 私だけではないはずです。
一昔前に祖先帰りしたような感覚です。
上昌広・東京大学医科学研究所特任教授は「政府の意向で国民が移住する。まるでスターリン時代のようだ」
石川和男・社会保障経済研究所代表は「流通・物流など高齢者向けサービスを提供する体制論からするとイメージが湧かない。介護・医療の面からはどうだろうか」と tweet しています。
政府が掲げている「地域包括ケア」の推進と どう整合性をとるつもりなのでしょうか。